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夜明けまでのセレナーデ
第7章 Fantôme de l'Opéra 〜epilogue〜
…夜の海は、女神の微睡みのように凪ていた。

ゆっくりと大海原を航行する船の船首に立つ男の背中に近づき、瑞葉は貌を埋める。
…懐かしい…ジャスミンの薫り…。
夢の中で幾度も追い求めていた…この逞しく美しい背中…。
…夢じゃない…
現実だ。

男がそのまま向きを変え、黒いマントの中に瑞葉を優しく抱き込んだ。
温かな男の体温に抱き竦められ、思わず涙ぐむ。

「…ねえ、どこに行くの?」
行き先さえ知らされていない。
尋ねる必要はなかったからだ。

「…このまま、世界の果てに参りましょう」
優しく穏やかな…僅かな甘美な毒が含まれる声…。

「…地の果てでも、お前と一緒に行く…。
どうせ僕は、地獄に堕ちるから…」
…あんなに自分を愛してくれたひとの元から、黙って消えてしまった…。
どんなに愛されても、この男を思い続けていた年月に勝てなかった。
泣き笑いする瑞葉の涙を、男の手が優しく拭う。
「地獄には私だけがまいります。
貴方は何も悪くはない」
「一緒に行く。連れていって。
…もう、ひとりは嫌だ」
子どものように首を振る瑞葉の白い額に、愛おしげにキスを落とす。
「…ご一緒にまいりましょう。
地獄の果てでも貴方と一緒なら、私には天国だ…」
八雲の瑠璃色の美しい瞳が、幸福そうに微笑んだ。
瑞葉のエメラルドの瞳が、嬉しげに煌めいた。

「…約束だよ。
僕たちは、永遠に一緒だ…」
「…瑞葉様…」

…愛している…。

…互いの愛の言葉は、ゆっくりと重なった唇に溶かされた…。
それは甘い吐息となり、あまたの星を映す海原の果てに、やがて跡形もなく消えてゆくのだ…。






〜la fin〜

Fantôme de l'Opéra 〜epilogue〜









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