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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
「…軽井沢は空気も水も綺麗だから、菫の喘息の発作も全く出ないのよ。
東京はまだまだ空気も悪いし治安も良くないそうだから、私たち二人は暫くは軽井沢にいるつもりなの…。
…どうせ礼也さんは当分飯塚だし…こちらに居てもお会いできないし…」
寂しげに告げる光はまるで乙女だ。
…性格は最悪だけど、母様は本当に父様を愛しているんだな…。
そんなところは少し感心する。

薫は愛想良くにこにこ笑いかけた。
「もちろんですよ。
菫のためにはそれが一番です。
いつまでも軽井沢に…いや、どうぞお気になさらずにいらしてください」
「…なんだか嬉しそうねえ?
どうせ煩い私がいないから、鬼の居ぬ間にと羽を伸ばしているんでしょう?」
美しい眼差しがきらりと光る。
「いいえ、とんでもない。
僕は学院の仕事に忙しいですし、羽を伸ばすどころではありませんよ」
慌てて弁解する薫をまじまじと見つめ、ふうん吐息をついた。
「…貴方がまさか星南学院の教師になれるなんてねえ…。
落第ギリギリで卒業できた貴方がねえ…。
大学もほぼ裏口入学で入った貴方がねえ…。
この世の奇跡だわ…!」
薫は光に良く似た美しい眉を顰めた。
「母様…!
貴方は嫌味を仰りにわざわざ軽井沢から出ていらしたのですか⁈」

光はにっこりと笑い首を振った。
「いいえ。もちろん違うわ」

…そうして光は、次に驚くべき言葉を口にしたのだ。

「薫、貴方に折り入ってお願いがあるの。
…陛下の末の姫宮様をこの屋敷で暫く預かっていただきたいの」
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