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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
「は?」
薫は眉を顰めた。
…何言ってんだ?このひと。

「陛下からお写真を拝見して思わず見惚れてしまったほどよ。
あんなにお美しい宮様は見たことがないわ。
まるで大輪の芍薬の花のように楚々として、上品で…。
落とし胤とはいえ、やはりお血は争えないわね」
「…あのですね、母様。たとえ宮様が絶世の美人でも、僕は全く興味も関心もないですし。
そんな重要な神経を使う役目を僕に押し付けないでくださいよ。
はっきり言わせていただくと、迷惑です!」

光は涼しい貌で、傍らに控える泉を見上げた。
「あらそう。
…じゃあ、泉にきくわ。
どう?泉。私からのお願い…聞いてもらえないかしら?
これは、礼也さんもご承諾されたことなのよ」

…主人の命とあれば、拒否する権限は執事にはない。
泉は恭しく頭を下げた。
「…畏まりました。
至らない点は多々あるとは思いますが、精一杯努めさせていただきます」
「ちょっと!泉!」
声を荒げる薫に気も留めず、光はにこやかに告げた。
「ありがとう!泉ならきっと引き受けてくれると思っていたわ」
「待ってください!今、うちには泉と梅琳しかいないのですよ?
どうやって…」
「軽井沢のキッチンメイドと下僕を一人ずつこちらに差し向けるわ。
その内、田舎に帰っていた使用人達も呼び戻します」
…これでも文句はあるの?というように見遣られ、薫は黙り込む。

「…では、そろそろ帰るわ。
菫が寂しがるから…」
立ち上がる光の椅子をしなやかに引いた泉を振り返り、光は優しく…けれど少し冷やかすように笑った。

「…司さんが早く東京に戻りたがっていらしたわ。
まだ治安が良くないから暫くは駄目ですよと申し上げたけれど…。
…ロミオのように恋の翼を身に借りたらどうなるかは…私には分からないわ」
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