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第8章 新たなる運命

「薫様…？」
驚く泉の引き締まった頰をそっと指で弾いた。
「…愛し合っている恋人同士は、一緒にいなくちゃだめだよ」
…会えるのに会わないなんて、そんなの贅沢すぎる…。
「…薫様…」
潤み始めた薫の瞳を見つめながら、泉はその白い頰を優しく撫で摩る。
「…暁人様ですね…」
「…違う…」
強がる薫に優しく笑いかける。
「…大丈夫ですよ。
暁人様は、もうすぐお帰りになられます。
必ずご無事で…薫様のもとに…」
「…泉…」


…「大丈夫ですよ。
薫様には泉が付いておりますから…」

幼い時…悲しいこと、不安なことがあった時、いつも泉はそう優しく語りかけてくれた。
その言葉を聞くと、悲しみや不安は少しずつ溶け出して、胸の中がじんわりと温かくなった。

…今もそうだ…。

薫は子どもの頃のように泉の逞しい胸にぐいぐいと貌を押し付けた。

「…ありがとう、泉…。
そうだよね。暁人は、必ず無事に帰って来るよね」
「はい。
…暁人様が薫様を悲しませるはずがありません」

…少し声色を変え、わざと厳しい表情で告げた。
「もし薫様を悲しませるようなことをなさったら、私が許しません」
「ふふ…。怖いな」
「…本当です。
薫様は、私にとって一番大切なお方ですから…」
微笑む泉の眼差しには、微かな熱が帯びていた。

…かつて…少年時代に、泉と一度だけ交わした熱い口づけが蘇る。

「…泉…」
二人の眼差しが濃密に甘く絡み合い…しかし、次の瞬間にどちらからともなく、それは静かに解けた…。
…僅かな、切なげな色を残して…。

「…ありがとう…。
でも…」
…司さんの前では、絶対に言わない方がいいよ。

揶揄うように見上げると、泉は薫の大好きなおおらかな温かい笑顔で頷き、一度だけ強く抱きしめた。