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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「…ふうん…。
それが薫の女性の初恋顛末か…。
なかなかにドラマチックだったな」
寄宿等への渡り廊下を渡りながら、紳一郎が涼やかな瞳を細めて笑った。
「紳一郎さん、揶揄っているんですか?」
じろりと睨む薫を白い手で制して
「いや、感心しているんだよ。
お陰で成田くんは学院の調理部を辞めて絹さんと手に手を取って駆け落ちしてしまった。
侍従長が真っ青になりながら、事務局に駆け込んできたよ。
…しかしやっぱり早い失恋だったな。ご愁傷様」
「そんなの最初から、煮え切らない成田くんをけしかけるためのお芝居ですよ。
…それに、絹さんは陛下に丁寧にお手紙をお書きになったそうです。
…自分は、姫宮とではなく、一市民として愛するひとと幸せになりたいと…。
…陛下は、きっとお許しになるでしょう。
ご自分の愛娘の幸せをお喜びになる…そういう寛大なお方です」

…「私、幸せになります。薫さん」
初秋の光の中、絹の笑顔が煌めいた。
ああ、やはり綺麗なひとだと薫はうっとりと見惚れた。

「…絹さんと夜会でワルツを踊れなかったのが残念ですよ」
絹は薫を見上げ、眩し気に微笑んだ。
「薫さんに教えていただいたワルツは、一生忘れませんわ…」
…私の宝物です…。
さやかな声が、薫の鼓膜を震わせた。

そうしてそのまま絹の美しいほっそりとした手は、龍介の浅黒く大きな手に包まれ…二人は幸せそうに笑い合うと、学院を後にしたのだった。

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