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夜明けまでのセレナーデ
第12章 夜明けまでのセレナーデ 〜epilogue〜
「…これからどうするんだ?」
二人横たわり、天井の明かり取りの窓から夜明けの空を眺める。
…イブに降り出した雪はようやく止み、澄んだ薄墨色の空には煌めく冬の星々が夢のように瞬いていた。

「…軍関係とか色々…。
何しろ二年近く行方不明だったんだ。
問題山積みだぞ」

…時代は変わった。
変わってしまった。
軍人だった暁人には生きにくい世の中になっている。
薫は胸を痛めていた。
…戦犯裁判も始まっていた。
暁人は若く、少佐だったとはいえ将校だ。
帰国したと分かれば、あの大戦を知る重要人物としてGHQから何らかの尋問はされるに違いない。
…もしかしたら、裁判の証人として駆り出されるかも知れない。

「うん。色々考えている。
…まずはGHQ本部に赴いて僕が見聞きしたすべてを話すよ」
「大丈夫なのか?そんなことして…」
不安そうに、暁人を見上げる。
けれど、暁人の澄んだ瞳は決して揺らぎはしなかった。
「僕は、先の戦争を早く終わらせたくて海軍に入った。
…とても残念なことに、悲劇的な結末でしか終戦は迎えられなかったけれども…。
だからこそ、これから日本が…日本人が幸せになるためなら何でもしたい。
もう敵味方関係なく、日本を平和で豊かな国にすることが大事なんだ。
だから、僕は決して信念は曲げないよ」

…相変わらずだな…と、薫は眩しげに暁人を見つめた。
真面目で、清潔で、志が高くて…。
…少年なのに高潔な暁人を、妬ましいようなもどかしいような…けれどやはり憧れに近い気持ちで見つめてきたのだ。

「…そうか…。
暁人がそうしたいなら頑張れ」
わざとあっさりと伝える。

天窓を見上げたまま、暁人は明るい口調で語り始める。
「…軍関係がきちんと終結したら、僕は大学に入り直したい」
「へえ…」
薫は眼を見張る。
「法学部に入って司法試験を受ける。
…父様みたいな弁護士になりたいんだ。
弱きを助け強きを挫く…そんな弁護士になって、世の中の役に立ちたい」

生き生きと展望と夢を語る暁人が、堪らなく愛おしくなる。


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