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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「はあ?あんた…何言ってんの?
…あ〜っ!今思い出した!あんたさ、昔、司さんにもちょっかい出してたよね?
泉がこぼしてたもん。
青山様はとにかく手が早いって。
…もしかして、紳一郎さんもあんたが騙くらかして!」

…司の部屋の外でよく泉の苛立ったような声を聴いた。
「青山様には気をつけろと言っただろう?
あの方は美青年と見ればすぐに手を付けるんだからな」
「妬いてくれてるの?泉…」
「…司、お前…」

…馬鹿馬鹿しくなって直ぐにその場を離れたが…。

大きな眼を見開いて噛み付く薫に、青山は声を立て笑った。
「ああ、司くん。懐かしいな…。
そうか…果敢にも敵陣のバルコニーに現れたハンサムなロミオがきみの執事か…!
世間は狭いものだな」
しみじみと見つめられ、薫は訳が分からない。
「へ?ロミオ?一体なんの話?」
怪訝そうな貌をする薫に、青山は大袈裟に肩を竦めて見せた。
「…ああ、この世にも見目麗しい貴公子には情緒も何も備わっていないらしいな。
お父上は大変にロマンチストであり、温厚かつ繊細な素晴らしい人物だというのに…。
極めて残念だ」

そうして…
「…そうか…」
まじまじと薫を興味深げに見回した。

「…きみは案外、光様に似ているのかも知れないね。
光様は一見完璧な貴婦人だがその実、じゃじゃ馬が極上のドレスとダイヤモンドを身につけたような…まあ、ざっくばらんに言えば男勝りなおてんば娘だからな。
…ちなみに、極めて情緒に欠けるのはきみと同じだ」
「…ちょ…あんた…よく母様のこと…」
呆気に取られる薫の肩にぽんと温かな手を置いた。
「私はゲイだが人を見る目はあるのだよ」

青山は高級スーツの上着の胸ポケットから上質なキューバ産の葉巻を取り出した。
洗練された手つきで火を点けると、ややしみじみとした口調で語り始めた。

「…紳一郎くんと私との関係を聴きたいかい?
彼は決して自分から語ろうとはしないだろうからね」
むっとしたように薫は少女のように形の良い唇を尖らせた。
「まるで僕が興味本位みたいじゃないですか。
…でも、聴きたいです。僕は何でも白黒つけなきゃいられない性質なんです」

青山がやや垂れ眼の成熟した大人の色香を漂わせた眼差しで微笑んだ。
「…やはりきみは光様似だ。
いいだろう。では、話してあげよう。
…愛と性とは一筋縄ではいかないという大人のお伽話を…」


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