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森の中
第6章 6 思い出
君枝は商品の陳列の仕方やレジなどの簡単なマニュアルを再度チェックしたのち何度も何度も時計を見ながら売店の中でそわそわしていた。おかげで初日から先輩に落ち着きがないと注意される羽目になる。
しかも今日は観光客も少ない日のようで時間がたつのがとても遅い。やっと午後になり折り返し地点だろうかと思っていると、救急車のサイレンが聞こえ始め店の外が賑やかになった。
君枝は不安に思い、さっと店を飛び出して、他の売店の売り子に声を掛けた。

「ねえ。何があったの?」
「んー。なんか転がり落ちて重症みたいよ」
「えっ。どんな人?」
「運ばれるのちらっと見えただけだけど赤のチェックのシャツを着た若い男だったわよ」

(さっきの彼だ)

君枝は朝約束を交わした男だと思いながら店にもどった。もう時計を気にする必要はなかった。

(命に別状がないといいのだけれど……)

男の無事を祈るだけで午後を過ごした。五時十分に完全に人が引けたのでレジを確認し四十五分に売店に鍵をかけシャッターをおろす。(六時まで待つ必要がなかったな)


軽くため息をつき、駐車場へ向かおうと思ったとき「待って!」と男の声が聞こえた。振り返ると約束を交わした朝の男が息を切らせて走ってくるのが見えた。

「あ、あなた。無事だったの?」
「え?無事って?」
「お昼に事故があって……。てっきり……あなた……だと」

安堵したせいか、君枝は足から力が抜けその場にへたり込んだ。
男が脇から支え、君枝の身体を支え起こしてベンチに座らせた。

「ああ。学生の登山部の子かもしれないな」
「よかった。無事で」

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