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森の中
第10章 10 面影
 母が書いた数行の日記の自分の名前にとめどなく涙が溢れてくる。君枝が死んだときに流す涙と今溢れる涙は違う。
もう悲しみに暮れる涙は流さないだろう。母を愛し愛された日々は過ぎ去った。これから瑠美は冬樹を愛していくのだと、消えゆく線香の煙の向こうの山の方へ思いを馳せた。


「お母さん、おやすみなさい」

 君枝の位牌に手を合わせ、布団に入る。

(明日会いに行こう)

 瑠美は冬樹のことを想った。彼は自分の事をどう思っているのだろう。本当にそばにいて居のだろうか。
いつ失うかもしれない不確かな関係ではあるが不安はなかった。真っ暗な一人きりの部屋に少しだけ開いたカーテンから月光が射してくる。
冬樹と出会えなければ君枝の死後、自分は真っ暗闇の中で死ぬまで過ごすのかもしれなかったと思った。

 強くはないが淡い光が畳の青さを浮かび上がらせ鎮静されるような静かな夜が更けていった。
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