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森の中
第11章 11 ペア
   一か月がたった。あれからも週に一回のペースで会っていて身体を重ねた。今日も瑠美がやってくるだろう。二人の関係はどういえばいい分からなかった。

   冬樹は彼女を愛し始めていた。死んだ妻の身代わりではなしに。凍結していた時間と心が溶かされていくのを感じた。しかし瑠美はどうなのだろう。彼女自身の気持ちは言葉に出されず、態度も出会ったころから大きな変化はなかった。

 先週プレゼントだと言い、もらった萩焼のマグカップを手に取る。この陶器は使えば使うほど飲み物の色が染みていき表情に深みが出てくる『萩の七化け』という変化を楽しめると説明書きにあった。今は素朴であっさりとした趣だが使い込めばどんなふうに化けると言うのだろう。

(瑠美のようだ)

 彼女は会えば会うほど抱けば抱くほど色濃く艶めいてくる。まるで自分の精を吸い濃度を増しているかのようだ。愛撫によって段々と瑠美の肌が赤く染まるのを思い出す。突けば突くほど出す声もどんどん甘くなり感度も増していく。

 冬樹は自分が欲情しているのを感じた。会う前から女に欲情することが久しくなかったので少し驚いたが同時に自分の中の感覚が何か変わるのを認めた。
 ふっと食器棚に目をやり、上絵付の薄くなったマグカップを見つめる。どんどん絵はかすれていき、素っ気なく、最後にはうっすらと何か模様があるだけになるのだろうか。
 手の中にある新しいこのカップは逆に年月によって渋みや深みを増していくのだ。
 過去を振り返ることも悲しい気持ちももはや昇華されていた。今は新しい変化を受け入れ歓ぶ準備が整っている。
 このマグカップは瑠美の身体のようだと思ったが、ここに自分の想いも重なって濃くなるのかもしれないと冬樹は滑らかな肌を優しくなぞった。
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