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森の中
第12章 12 芽吹き
 ノック音に反応して冬樹は立ち上がりドアを開け、瑠美を通した。
「こんにちは」
 少し明るくなってきた表情と服装に春を感じた。
「あの場所に行こうか」
「はい」
 嬉しそうに頷く瑠美を連れて君枝の遺骨をまいた雑木林に向かう。着くといつも瑠美はブナの木を眺めて撫で、地面の散骨しただろう場所の落ち葉を見つめ、最後に遠くの海を見た。

 帰ろうとする瑠美に冬樹は唇に人差し指を当て静かにするように合図をする。
 視線の向こうには二匹の狸がいる。交尾をしているらしくメスらしい少し小さめの狸に大柄な狸が乗っている。二人で静かに見守る。しばらくすると二匹はざざっと森の茂みに消えた。

「今のシーズンは狸の発情期なんだ」
「そうなんですね。動物の交尾ってとても自然でおおらかですね」

 率直な感想を言う瑠美に冬樹は
「僕らも動物だよ」
 と、言いながら腰を引きよせ口づけをした。とろんとした目の瑠美は
「動物はこんな気持ちにならないと思います」
 と、言う。

「どんな気持ち?」
 首筋にキスをしながら尋ねると
「どんな、って……。わからない……」
 と、吐息交じりに答えた。
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