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強姦魔
第5章 里見家の悲劇
「戸締りに気をつけろ」
里見(さとみ)武(たけし)は32歳の商社マン。これから3週間の予定でアメリカに出張するが、30歳の妻の美知恵(みちえ)に何度も念押ししていた。
二人は先月までは社宅に入っていたが、2週間前に30坪、3LDK、2階建てのこの家に転居してきた。だが、新規造成地。両隣は基礎工事を終えたばかりで、近隣の家までは20mほど離れている。
「分っているわよ。大丈夫だか。そんなことより、お仕事頑張ってね」
「ああ、分ったよ」
夫はそう言って、迎えにきたタクシーに乗って出掛けて行った。
「おはよう。ご主人、出張?」
玄関先で見送った美知恵は犬を連れて朝の散歩中だった自治会副会長、兼子(かねこ)淑江(よしえ)から声を掛けられた。先日、彼女から自治会加入を勧められたが、美知恵はそういう付き合いが苦手。やんわりと断ったが、こう挨拶されては、無視する訳にはいかない。
「あ、兼子さん、おはようございます。ええ、アメリカです」
話を早く切り上げたい美知恵は玄関のドアノブに手を掛けていたが、そんなポーズは兼子淑江には通じない。「へえ、羨ましいわね」と玄関のポーチに足を一歩踏み入れ、「先日の自治会の件、どうかしら?」と話を繋げてきた。出来れば、「いいえ、お断りします」ときっぱり答えたいところだが、そうすれば、角が立つ。とりあえず時間稼ぎしておこうと、「はい、主人が出張から帰りましたら、よく話し合ってみます」と返した。だが、「よろしくね」と笑う兼子淑江の顔には、「加入しなくちゃ、ダメよ」と書いてあった。