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幻の果てに……
第2章 思案
「お帰りなさい」
いつものように夫の隆志(たかし)を出迎える。
三ヶ月振りの帰宅。
その間私が何をしていたのか、夫は知る由もない。
おとなしくて従順な妻。
それも、無理に演じているわけじゃない。
私は元々そんな性格。
夫はそこを気に入り、交際して結婚したのだろう。
あれからあの店へは行っていない。
夜になると幻の時を考えはしたが、どこかで自分を止めなければ。あの店へ通い続ければ、私はきっと壊れてしまう。
穏やかな日常さえも。
そう考えて自分で慰めていた。
後悔……。
会ったばかりの男達の前で、あんなに乱れるなんて。
金銭は発生していないから、体を売ったわけじゃない。同意の上で、行為に及んだだけ。
相手の名前だって、偽名かもしれない。
「すぐ食事にする?」
「そうだな」
夫が二階で着替えている間に、手際よくテーブルへ食事を並べる。
普段海外にいる夫は、帰宅すると和食を喜ぶ。
煮物や焼き魚。和風の小鉢と味噌汁を用意し、久し振りに夫と向かい合っての食事。
夫が向こうでの生活や仕事の話をし、私は笑顔で聞く。数ヶ月に一度の、いつものこと。
単身赴任で淋しいとはいえ、たまに会える方が遠距離恋愛でもしているよう。
勿論私だって、彼が好きだから結婚した。こうやって会えるのも、話を聞くのも楽しい。夫のセックスにも、不満は無かった。
今までは。
それは長く離れている時間と、淡泊な夫に慣れてしまったせいもあるだろう。
でももう、私は貞淑な妻じゃなくなってしまった。
一度目は知らなくて行ったとはいえ、結局会ったばかりの男とセックス。
二度目は、自ら足を運んでしまった。
もうやめなければいけない。そう思い、二度目以降は自分を抑えている。
過ちは消えなくても、夫にさえ黙っていれば知られることはない。
楽しい食事が終わり、私は後片付け。
「風呂入ってくるよ」
食事の前に、24時間循環式の風呂を作動させておいた。一人の時は勿体ないから、入浴の直前にお湯を張っている。
夫が風呂へ行き、片付けを終えた私はソファーで溜息をついた。