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幻の果てに……
第2章 思案

肩に掛けていたバッグを、わざと掛け直した。
バッグなどを買ったのはこのため。
“世話焼きオバサン”は午前中いつも外の掃除をしているから、会うかもしれないとは思っていた。
「そうなのー。淋しいわよね。子供もいないし」
「はい」
余計なお世話。
私に子供がいようといまいと、あなたに何も迷惑はかからない。
そう思いながらも、笑顔で挨拶をして通り過ぎた。
家に入り、ソファーへ座る。
子供がいたら、夜に家を空けられない。
いなくて良かったのかもしれないとさえ思った。
自分を解放出来る場所。
それを見つけた私には、自由な時間が必要。
夫は子供を欲しがっている。少し前の自分も、子供が出来ないことに悩んでいた。
でも今時、一生夫婦だけでも構わないだろう。
そう考えるくらい、今の私はあの店での出会いに溺れてしまった。
行ってはいけない場所。一度はそう考えたのに。
こうして家にいると、心は今でもやめなければと思う。でも、体がそれに付いてきてくれない。
こんなことは初めてだった。
愛する夫がいて、子供はいなくても家庭がある。
それで幸せだと思っていた。自分はもう守られていると考えていた。
そんな場所から足を踏み出したのは、自分自身。
親友に連れて行かれたからといっても、男性を拒否する権利はあった。
一歩踏み出した場所は、底なし沼。
まだ間に合う。あと一度だけなら。そう思っているうちに、どんどんと飲み込まれていって行ってしまった。
もう止まらない。
止められない。
夫の前では、貞淑な妻を演じればいいだけ。
知らない男の前が、本当の私。
そうなればいいと決心していた。

