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幻の果てに……
第3章 悦楽

「梨央。あの店に通ってるの?」
「うん。たまにね……」
今日は本当に静香が泊りに来ている。
彼女の夫は呑み会で遅くなる予定だと決まっていたから、夫婦同意の上で。
私の所なら、安心だと思っているのだろう。
誰よりも危険かもしれないのに。
静香が言うには、夫が単身赴任で淋しい私の所へ、“たまに泊まりに行ってあげる”という名目。
泊まることを普通にしておけば、出来事の日にちが曖昧でも不自然じゃなくなる。それは、静香から言い出したことだった。
「どうする? 今晩」
ビールのグラスを持った静香が、向かいから覗き込んでくる。
「ん……。どっちでもいいよ」
「じゃあ決まり。行こう? 早くしないと、いい男いなくなっちゃうよ?」
テーブルの上を簡単に片付け、家を出た。
女性の静香と一緒なら、もし近所の人に見られても構わない。
大学時代の友人と呑みに出た。それで済むはず。朝や昼に戻っても、二人なら何とでもなる。
それは、お互いにとっても便利。
通りでタクシーに乗り、繁華街へ着いた。
私ももう覚えた、あの店まではすぐ。
繁華街には呑み屋も多く、私達が男を求めて店へ行くとは思われないだろう。
「お姉さん達。一緒に呑もうよー」
声をかけられたが、静香が睨みつけてから無視して歩いた。
ナンパには興味がなかった。
ホストクラブで、上辺だけの誉め言葉のために散在する気もない。専門に男を買う店もあるだろうが、そんな風に買った男と寝るのも嫌だった。
私が求めているのは、一夜限りの幻。
「ねえ。梨央」
店までもう少しという所で、静香が耳打ちしてくる。
「え……」
「ねっ?」
「うん……」
ニッコリと笑った静香が、ドアを開ける。私も続いて入った。
料金を払い、一つ空けてカウンタ―へ座る。
平日なのに、客は程々にいた。
この広い世の中、私と同じ考えの人間も多いという意味。
「こんばんは」
その声に、カクテルを呑む手を止めた。
三十代前半だろうか。
「隣に座ってもいい?」
「はい……」
彼が水割りを頼んでいる時に静香を見ると、男性に声をかけられている。

