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幻の果てに……
第7章 没落

◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
私が35歳になった時、夫と話し合った。
もう、子供は諦めたいと。
「まだまだ、産めない年じゃないだろう?」
「欲しくないの……」
三階の二部屋は空いたまま。
「どうして。梨央だって、子供が欲しいって言ってたよね?」
「それは。あなたが、欲しいって言うから……」
嘘。
あの店を知るまで、私も子供が欲しいと思っていた。
だからこの家を建てる時、話し合って三階に子供部屋を用意した。
「……何でだよ。今時、40代で産む人もいるだろう? チャンスが少なくてプレッシャーになってるなら、梨央も俺と一緒に来ればいいよ」
夫の赴任先へ来いという意味。
単身赴任が決まった時、それも考えた。
当時はこんなに長引くと思わなかったから、せっかく建てた家で、数年待つつもりだったのに。
「梨央? 誰かに、何か嫌味とか言われたのか? だったら余計、一緒に……」
「無理。私、日本語しか分からないし」
それは本当のこと。
今更、知らない国で生活する勇気も無い。
「梨央……」
「お風呂入ってくる……」
夫の呼ぶ声は聞こえたが、振り返らず風呂へ行った。
三ヶ月に一度、三日間しか戻らない夫。
それでも、夫婦と言えるのだろうか。
静香はあの後、夫の子供を出産した。
よく笑う元気な男の子で、可愛いとは思う。たまに一緒に遊びに来ることもあった。
勿論、彼女もあの店へ通うのをやめた。
私は卓也の誘いで出かけていたが、その頻度は徐々に減っている。
男達にも子供が出来、人数が集まらないせい。
「梨央?」
湯船に浸かっていると、外から夫の声。
「また明日、よく話し合おう。なっ?」
返事をせずにいると、夫の蔭が去って行った。
子供なんていらない。
私には卓也がいる。
愛情を持ってはいないが、何か別の絆で結ばれていた。
夫よりも深く。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
話し合いは平行線のまま、夫は赴任先へ戻った。
夫は説得する一方。私は否定するだけ。
これだけ離れていれば、愛情だって薄くなっていく。

