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降りしきる黄金の雫は
第4章 4 金木犀
胸のあたりをさすられる感覚に虚ろながら意識が戻る。ぼんやりと何時だろうかと思うが眼鏡をはずしているので暗闇の中の壁の時計は見えなかった。
再び意識が表層から落ちそうになったときに何かささやく声が聞こえ、身体を刹那的な快感が突き抜ける。ふわっと浮くような体感の後、僕は闇に落ちて行った。

 華やかな芳香で目が覚める。

「んん?この香りは――」

勢いよくベッドから降り、カーテンを開けると満開の金木犀が咲いている。

「ああ、咲いたんだ。綺麗だ」

黄金の小さな花をいっぺんに開花させ、麗しい香りを四方八方に放っている。サンダルを履き、木の側へ行くとさわっと風が吹き、黄金の香りが僕の全身を包みこんだ。
まるで香りのシャワーのようだ。香りに当たったのか少しめまいを感じたので金木犀から距離を取り縁側に座ってしばらく眺める。
香りもさることながら、やはり立ち姿が美しい。円筒型に剪定されており品の良い佇まいで、格式の高さを感じさせる。

「大家さんが言ってた、由緒ってなんだろうなあ」

金木犀は中国で栽培されており、日本へは江戸時代に入ってきたと言われている。樹齢1200年以上となる天然記念物の「三島神社のキンモクセイ」は実際は金木犀の親戚の薄黄木犀(ウスギモクセイ)だ。

この金木犀の強い芳香はやはり外国のものだなあと実感する。平安時代などからこの香りがあれば、また日本の香り文化は変わっていたかもしれない。
ぼんやり木を眺めて時間をつぶす。普段は木々の病気や傷などを発見、治療で忙しく、このように木を愉しむことは少ない。
素晴らしい同居人が出来たような気がして僕は改めて木の存在意義を感じた。
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