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降りしきる黄金の雫は
第8章 8 日常
 横並びでベッドに腰かけ、少し彼の肩にもたれた状態で今日の出来事を話す。

「私が恋人だと不服なのか?」
「え?」

思ってもいなかった言葉に声が出なくなった。

「あ、あの――」
「この姿になってだんだん欲するということがわかってきた。お前が嫌がることはしない。ただお前が欲しいと思うことがある」
「け、桂さん――」

暗闇に花の香りが強い。空気が甘く濃厚になっていく。

「人間の営みを何度も見てきたが今ならなんとなくわかる。痛みを与えることだけは相容れぬがな」
「ぼ、僕は――桂さんに比べるととても小さな存在で、あ、あなたを恋人だなんてとても――」

「私を好まぬか」
「そ、そんなこと!桂さんのことが――好きです。ずっと居てほしい」

「居るだけでよいのか?」

深い緑のエメラルドのように輝く瞳が僕をとらえて離さない。言葉に出すと心が動き出す。彼が――好きだ。同時に失う怖さを感じる。

「こわい。今より深く思うことが――もし、もしも――」
「形のあるものはいつか無くなる。そのことはお前以上に私も知っている。そして今のこの想いがなくなることも」

「想いも――なくなる……」
「今まで私には思いなどなかった。お前たちが思うことを思うようにやりたがることもただ眺めてきただけだ。しかし何にもならなくともその思いのためにこの身体は動くのだな」

桂さんは植物でありながら人の心と身体に自身で感心しているようだった。

「桂さんは僕のことをどう思っているのですか? その姿になって会うのが僕だけだから――恋人って思うんじゃないでしょうか」

自分で自分を傷つけながらも聞かずにはおけない質問だ。『そうだ』と言われれば辛いが納得する。

「お前が良い。この姿にならずとも、お前以外を欲しない」
「ほ、ほんとうに?」

豪華なこの美しい人がちっぽけな僕を欲してくれるというのか。舞い上がりそうな気分とまさかという気持ちが同居する。

「自分を過小評価しすぎだ。そして私を過大評価し過ぎている」
「だ、だって――」

「私は長く生きているだけだ。お前は意志をもって私たちを守って育んでいる」

するっと伸びてきた両手が僕の頬をかすり髪の毛の中に滑り込み頭を包み込んだ。桂さんの端正な顔が近づいてくる。

「け、桂さん……」
「委ねろ」

抗う気持ちなどすでに一切ない。心の命ずるまま彼に身体を預ける。
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