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狼に囚われた姫君の閨房録
第19章 伊東甲子太郎の入隊
元治元年の十月のある日のこと。
夕方、激しい雨が降った。灰色の雲がすごい速さで厚くなっていく。稲妻も走り抜けた。
「もう秋だというのに……」
私は私室の障子戸を閉めた。
篠つく雨が庭石を叩く音がする。窓が一瞬光り、雷鳴が轟いた。
「新しい隊士が加わるって話だけど、どんな人たちかしら?」
父が自ら江戸に行き、集めてきた人たちだと聞いた。
平助と同門で、北辰一刀流の使い手・伊東甲子太郎。弟の鈴木三樹三郎ほか数名。
これで、新選組は大所帯になる。
今頃、新選組幹部との顔合わせが終わった頃だろうか?
本来ならば、私も参加した方がいいのだけど、
「お前は私室にいろ。出てくるんじゃねえぞ」
と、歳三に厳命されたので、私室でおとなしくしているわけである。 
伊東甲子太郎一門を、歳三は信用していないらしい。
歳三は人を見抜く力に秀でている。それは亡き実父・井伊直弼も認めていたことだ。
(私は関わらない方がいい人たちかもしれない)
そう思ったとき、荒々しい足音が近づいてきた。
「この足音は左之助兄上さま?それとも、新八……違う!」
迫ってくる敵意。兄たちなら、こんなものをぶつけるはずがない。
私は胸元の懐剣に手をかけた。
スパーンと障子が開け放たれた。
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