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狼に囚われた姫君の閨房録
第26章 一との逢瀬
夏の夕刻。
伊東一派が新選組を抜けて、約半年が経った。
「大丈夫か?暑いだろ?」
市中見回り中に、左之助がすぐ後ろの私を振り返った。十番組は汗をかきつつも、隊列を崩さずに歩いている。
「ご心配なさいますな」
私はにっこりとした。
蒸し暑さに体がふらつく。しゃがみ込みたい。
だが、平助や一が脱退した今、手はいくつあっても足りない。
見回りも、私から同行を申し出たのだ。泣き言は言えない。
「無理するな。休憩しようぜ。見回りも、終わりだ」
左之助は背伸びをした。西に傾いた夕陽に気づくと、隊士たちに帰営を命じた。
「お前らは屯所に戻れ。俺たちは寄るところがある」
「はっ!」
「お先に!!」
隊士たちは浅黄色の羽織をなびかせて、屯所に戻っていく。
隊列を見送ると、左之助は私の手を取って歩き出した。男女が手を繋ぐなど珍しい時代だが、左之助は平然と歩き続ける。
半里(一・五キロほど)ほど行くと、居酒屋があった。
「女将、いるかい?」
縄のれんを押しのけながら、左之助が混雑した店内に声を投げる。
「あらまあ、原田さま。お待ちしておりましたよ」 
髪を横に流して束ねた女性が奥から出てきた。齢三十くらいで、白い前掛けをつけている。 
「頼んだものはできてるか?」
「用意しておきました。このお嬢様ですよね?」
にこやかに私を見る女将。
「奥で着替えさせてやってくれ。俺は冷やで一杯やってる」 
何に着替えよというのだろう?戸惑っている暇もなく、私は奥の一室に案内された。
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