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狼に囚われた姫君の閨房録
第26章 一との逢瀬
白地にあやめをあしらった浴衣。帯は娘らしい若紫色であった。
それを纏って左之助のもとに戻ると、
「よく似合うじゃねえか」
手酌で飲んでいた左之助は、私の浴衣姿に目を細めた。
「今夜は五山の送り火がある。前の通りからよく見れる。ちょっと眺めてこい」
私は窓越しに外を見た。やけに、人の往来が激しい。
ああ、そうか。
今日は八月十六日。大文字焼きの夜だ。
大文字山の斜面を大の字に焼き、先祖を見送るのである。
「兄上さまは?」
「俺は飲んでる。露店も出てるから、気晴らししてこい」
左之助は小銭の入った巾着袋を私に渡した。
(それで、こんなところまで、わざわざ……)
一が脱隊してからというもの、私はずっと悶々としていた。
一に会いたくて会いたくてたまらない。遠く離れてみて、一がいかに私にとって重要な人か思い知らされた。
だが、それは口に出せない。
心の葛藤を、左之助は気づいてくれていたのだ。
ならば、気遣いを喜んで受けよう。
私は巾着をカゴ巾着に入れた。
「ちょっと行ってまいります。遠くにはいきませぬゆえ、ご案じなさいませんように」
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