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狼に囚われた姫君の閨房録
第28章 平助、死す!
私と歳三が油小路に駆けつけた時、戦闘は始まっていた。伊東の遺体を辻に晒し、誘き寄せる手筈だったのに、伊東派の行動はそれよりも早かった。
「こなくそ!」
左之助の槍が相手の体を突き通す。それごと槍を振り回し、相手を塀に叩きつける。
恐るべき無双の膂力であった。
「こんちくしょう!」
刃と刃がぶつかり合う音が耳をつんざいた。さすがの新八も、多勢に無勢で苦戦していた。 
「加勢するぞ、新八!すみれは物陰に隠れてろ!!」
私は足手まといにしかならない。私はおとなしく細い路地の暗がりに潜んだ。
(一兄上さまは……)
視線を巡らすと、いた。
一は一人で数人を相手に斬り合っている。舞うように相手の刀をよけ、流れるような所作で敵を斬り伏せた。
空中に弧を描く白刃の煌めきは、戦闘中だということさえ忘れさせた。
「変わってない……何も」
そう呟いた時、斜向かいの建物の屋根から殺気を感じた。
そちらに目をやると、鈴木三樹三郎が銃を構えていた。
その銃口は伊東派と刃を交える平助に向けられていた。
「死ね、裏切り者!」
引き金に指がかかるが早いか、私は足元の石を三樹三郎の手に投げつけた。
「ぐっ」
発砲は防げなかった。だが、弾は逸れた。平助に当たらず、民家の塀に当たった。
三樹三郎は屋根から飛び降りた。真下にいたのは、平助だ。
「裏切りのツケは払ってもらうぜ!」
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