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狼に囚われた姫君の閨房録
第41章 歳三、北に散る
刃と刃がぶつかる音が晴れ渡った空に響いた。空は哀しくなるほど蒼かった。
「うおっ!」
咆哮にも似た雄叫びを歳三があげた。死闘であった!
歳三は最期の戦いを演じていた。
ひたすら、敵を斃す。それこそが歳三の生きてきた道なのだ。
「……っ!!」
私は草叢から殺気を感じた。
西洋銃が歳三に狙いを定めている。その者は引き金に手をかけていた。
「させない!」
私は馬に乗ったまま、サーベルを片手に突っ込んだ。その者の胸を一突きに。
銃弾が逸れて、歳三の脇を掠めた。歳三が猛突進してきて、銃を構えようとした兵を一刀で斬り捨てた。
「大丈夫か?すみれっ」
「兄上さま、いったん撤退しましょう。死体が増えるだけです」
「手遅れって気もするがな」
足元には、味方の兵の死体がいくつも転がっていた。
生き残ったのは、私と歳三だけか……
「すみれ、死ぬ気はあるか?」
「愚問すぎますね」
父が暗殺されて以来、私は常に死と隣り合わせで生きてきたつもりだ。
「俺が馬で先陣を切る。お前はすぐ後ろをついて、敵の死角から飛び出せ」
「それじゃ、兄上さまが……」
「俺が的になってる間に突破しろ。絶対、後ろを振り返るな!」
私は茫然と歳三を見返したが、
「俺たちの目的は弁天台場の救出だ。目的を違えるな」
真摯な目に射抜かれ、頷くしかなかった。
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