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狼に囚われた姫君の閨房録
第11章 八一八の政変
「すみれ!」
悲鳴に近い叫び声で、私は我に返った。
アブラゼミの輪唱が耳に蘇ってきた。もう、すっかり陽が暮れている。
「すみれ! しっかりしろ!!」
放心状態で座り込んでいた私の肩を、左之助が揺すった。勢い余って、私は左之助の胸に倒れ込んだ。
全身に力が入らない……。
「何があった?」
違う声が頭上でした。これは歳三?
「……あ……」
私が言葉を紡げずにいると、
「答えろ!何があった?」
歳三が矢継ぎ早に尋ねる。
ものを言わない肉の塊が二つも転がっているのだ。当然の反応だろう。
「ケンケン言うなよ。何があったかなんて、見りゃわかるだろうが」
新八が私に着物を着せながら、かばってくれたが、
「見当はついてる!」
歳三ははじき返した。
「正確なところを聞きたいんだよ!!」
「佐伯が……私に襲いかかり……」
私は左之助に抱きしめられたまま、声を絞り出す。
「佐々木どのが私を助けにきたものの……力及ばず討ち取られました。その仇を私が……」
「討ったってことか。仇討ちだな?」
「……はい」
「私闘ではないんだな?」
「誓って……」
「わかった。新八は隊士たちに命じて、遺骸を片付けさせろ」
「おう」
「左之助は会津藩邸に付き合え。このことを報告する」
「わかってる」
「総司と一はすみれを着替えさせて、休息させろ」
総司と一が頷くのを待って、歳三は憤慨して付け加えた。
「ふざけた真似しやがって。どうしてくれるか、みてやがれ!」
その言葉の意味がわかったのは、後のことだった。
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