この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater44.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
狼に囚われた姫君の閨房録
第12章 新見錦の粛清
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
九月十五日。
明け方から、小雨が降っていた。屋根裏部屋から出された私は、奥の一室で灰色に沈む景色を眺めていた。
雨のすだれ越しの庭は、見ているだけで落ち着く。仄暗くて、涼しくて。
道場から響く威勢の良い声も、今日はしないから静かだ。
「すみれちゃん」
部屋の隅で、刀に打ち粉を振っていた総司が呼びかけた。
私は顔だけで振り返った。
「はい」
「僕たちは今夜『山緒』って料理屋に行ってくる。いい子にしてるんだよ」
「お気をつけて。お食事ですか?」
夕餉はいらないのかな?と考えていると、
「隊務だ」
書見台で書物を読んでいた一の声が低く響いた。
「新見錦を粛清する」
「新見を?」
私は膝を揃えて座り直した。筆頭局長・芹沢鴨の片腕だ。
「先月の政変、長州藩が京を追い出されたってことは知ってるよね?」
総司の問いに、
「帝を擁立しようとしてしくじり、堺町御門の警備を解かれましたとか」
私は聞き齧ったことを答えた。
「新見錦は長州と通じていたんだ」
絶句する私に、総司は畳みかけた。
「君を襲った佐伯又三郎は長州藩の間者だったよ。その佐伯を隊に入れたのが新見錦でね」
「我々はまんまと一杯食わされたというわけだ」
一は声のトーンを落とした。
「会津藩の意向もある。借りは返さねばならぬ」
「粛清には、僕と一くん、歳三兄さんが向かう。朝までかかるかもしれないから、先に寝ておいで」
私は青畳に手をつかえた。丁寧に、一礼する。
「お勤め、お疲れ様でございます。ご武運をお祈り申しておりまする」
明け方から、小雨が降っていた。屋根裏部屋から出された私は、奥の一室で灰色に沈む景色を眺めていた。
雨のすだれ越しの庭は、見ているだけで落ち着く。仄暗くて、涼しくて。
道場から響く威勢の良い声も、今日はしないから静かだ。
「すみれちゃん」
部屋の隅で、刀に打ち粉を振っていた総司が呼びかけた。
私は顔だけで振り返った。
「はい」
「僕たちは今夜『山緒』って料理屋に行ってくる。いい子にしてるんだよ」
「お気をつけて。お食事ですか?」
夕餉はいらないのかな?と考えていると、
「隊務だ」
書見台で書物を読んでいた一の声が低く響いた。
「新見錦を粛清する」
「新見を?」
私は膝を揃えて座り直した。筆頭局長・芹沢鴨の片腕だ。
「先月の政変、長州藩が京を追い出されたってことは知ってるよね?」
総司の問いに、
「帝を擁立しようとしてしくじり、堺町御門の警備を解かれましたとか」
私は聞き齧ったことを答えた。
「新見錦は長州と通じていたんだ」
絶句する私に、総司は畳みかけた。
「君を襲った佐伯又三郎は長州藩の間者だったよ。その佐伯を隊に入れたのが新見錦でね」
「我々はまんまと一杯食わされたというわけだ」
一は声のトーンを落とした。
「会津藩の意向もある。借りは返さねばならぬ」
「粛清には、僕と一くん、歳三兄さんが向かう。朝までかかるかもしれないから、先に寝ておいで」
私は青畳に手をつかえた。丁寧に、一礼する。
「お勤め、お疲れ様でございます。ご武運をお祈り申しておりまする」
![](/image/skin/separater44.gif)
![](/image/skin/separater44.gif)