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狼に囚われた姫君の閨房録
第13章 芹沢鴨暗殺
九月十六日。その日の昼。
雨は勢いを増した。外は薄暗く、雨に濡れた樹々の香りが室内に忍び込む。
八木邸では緊張した昼餉が始まっていた。
騒がしい談笑もない。みんな、黙々と箸をすすめている。
給仕をしながら、私は上座の歳三に話しかけた。
「あの、歳三兄上さま。お願いしたい儀がございます」
「却下だ」
私を見もせず、箸も止めず、歳三は言い放った。
「まだ、何も言ってないじゃん」
平助が味噌汁を飲みながら突っ込むと、
「言いたいことなんざ、お見通しなんだよ。芹沢暗殺に協力させろって言いたいんだろうが」
歳三は厳しく吐き捨てた。あからさまに、嫌そうな顔をしている。
「何卒、お許しください」
私はわざわざ歳三の前に行くと、畳に手をついて頭を下げた。
「大坂での屈辱、忘れられるものではございません。足手まといにはなりません。それなりの働きをしてみせまする」
「笑わすんじゃねえ。お前の薙刀がなんの役に立つ?」
「そんな言い方はねえだろ? すみれの気持ちもわかってやれよ」
新八が擁護し、左之助も口を挟む。
「雪辱を果たしたいなんて、あっぱれじゃねえか。連れて行ってやろうぜ」
「おまえら、わかってんのか?芹沢鴨は新見たちとは違う。簡単に討てる奴じゃねえ」
「まあまあ」
山南が物静かに茶に手をのべた。
「多数決をとってはどうです?賛成が多かったら、すみれさんを同行させればいい」
「叔父貴、あんた……」
歳三は言葉をつげなくなったようだ。多数決を求めたら、賛成が上回るのがわかりきっている。
「わかった。好きにしろ。だが、絶対に俺たちの足を引っ張るなよ。いいな?」
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