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狼に囚われた姫君の閨房録
第13章 芹沢鴨暗殺
その夜。島原の角屋である。
相変わらず、雨はやまない。時々、雷鳴が轟く。
芹沢に酌をしながら、私は気を揉んだ。地面はぬかるんでるし、この雨と風では斬り合いもしづらい。 
(兄上さまたち、どこで、芹沢を討つつもりなんだろうか?)

きらびやかな座敷の中央では、新八がどじょうすくいで場を盛り上げた。
「新兄ぃ、最高! 名人芸!!」
平助が茶碗を楽器のように箸で鳴らすと、左之助もひょっとこの面を被った。
「俺も興を添えるぜー」
左之助がざるを持って踊り出すと、
「おっ、左之!やるか〜」
新八もより腰を振る。
「いいね、いいね」
総司が手を打って喜ぶ。歳三も一も上機嫌で、盃を重ねている。
「ずいぶんと、今夜は楽しそうだな」
料理をつつきながら、芹沢が言う。
かなり呑んでいる。耳まで真っ赤だ。
「新見錦も死んだ。平山五郎も死んだ。あとは、この俺を始末するだけだと思ったら、嬉しさを隠せぬか」
「ご冗談を」
私は口に手を当てて笑った。
「今宵はただの宴。邪推はおやめなさいませ」
「この酒、薬がもってあるかもしれんが、俺には効かんぞ」
「局長ともあろう方がお戯れを」
山南が口を挟む。口元に笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「効かぬと分かっている薬など使いますものか。安心して、お召し上がりください」
「なるほど。無駄な真似はせんということか。ならば、酒をもっと運ばせろ。これしきでは、とても酔えぬ」
「すみれ、酒の追加だ。料理も適当に頼んでこい」
と、歳三。そして、目で私に告げた。そのまま、座敷に戻るなと。
「かしこまりました。板場の者に、申し付けてまいります」
私は席を立った。
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