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狼に囚われた姫君の閨房録
第15章 池田屋事件(前編)
話は元治元年の六月に飛ぶ。
すっかり夏になった陽射しが屯所に降り注いでいる。朝から蒸し暑い日、私は左之助と副長室を訪れた。
歳三は朝餉を終えたところだった。
「おはようございます。お召しとうかがいましたが」
私が入り側に手をつかえると、
「四条小橋に枡屋という古物商がある。左之助と一緒に行ってこい」
矢継ぎ早に言うと、歳三は左之助を見た。 
「こいつに手鏡の一つも買ってやれ。帰りは遅くてもいい」
「それって、早く戻ってくるなってことか?いよいよってわけか」
左之助の問いに、歳三のほおが一瞬引きつった。それが返事だと思ったのか、左之助は私の肩を引き寄せた。
「お望みどおり、のんびりしてきてやるぜ。せっかくの非番だ。こいつと逢引も悪くねえ。そのかわり、日暮れまでには、片をつけとけよ」
「わかってる。すみれも、それでいいな?」
相変わらず、歳三は問答無用だ。こちらはさっぱりわからないのに、説明もしないのだから。
だが、もとより、断れるはずもない。
「兄上さまたちのお役に立てますならば、喜んで」
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