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ペリドット
第1章 台風9号が直撃する夜。
 既に僕の手の内にはピザ屋のチラシがあった。一人で食うピザなんてSサイズでも直ぐに冷めてしまって味気無いのだが、今からコンビニに行く労力を考えると、総合的にピザの方が1ミリか2ミリくらいは優位だなと、その時はそう思ったのだ。
 ケイタイを取り、番号を押していると、三度目の呼び鈴が室内に鳴り響いた。
 新聞屋か宗教屋か知らないが、今日はやけにしつこいなと思い、僕はケイタイとチラシをソファに置いて忍び足で玄関へと向かった。
 何者かは解らないが、若くて綺麗な女性だったら、話だけでも聞いてやろうかな?と思っていたのだ。しかし、大体の場合この時間帯に回って来るヤツと言えば、何者であろうともオッサンか良くてもオバサンだと相場は決まっている。
 だから、僕は今忍び足で玄関へと向かっているのだ。オッサンかオバサンの場合はそのまま忍び足で引き返して、再びシカトを決め込んでピザの注文をするのだから。
 まぁ、実際普通に歩いても外に僕の足音が聞こえる訳では無いのだろうが、忍び足になってしまうのは僕の性分なのだろう。要するに、僕は僕で下らない部類の人間なんだ。

 玄関へと辿り着き、少し息を整えてから、僕は魚眼レンズへと左目を当てた。
 視界の先には、若くて綺麗な女性がいた。いや、と言うか彼女は最近引っ越して来た隣りの奥さんだ。
 越して来た日に旦那さんと一緒に菓子折りを持って挨拶に来て以来だが、初見ではお淑やかで綺麗な女性だったので、僕的には好印象だったのはまだ記憶に新しい。
 三度も呼び鈴を鳴らすのだから、何かトラブルでもあったのかもしれないと思い、僕はガチャガチャと慌てて開錠して、扉を開けた……。
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