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借金のカタに妻を差し出しました 復讐編
第8章 3年後
応接間に通された佐脇は、井縫の妻、志寿火に改めて名刺を渡すと、夫が証券取引を行なっている事を、初めて知らされた。
更に、取引に於いて損失を出し、1週間後までに5百万円が必要な事を知らされた。
信用取引や、追証など専門用語は解らなかったが、佐脇の丁寧な説明で何とか理解はできた。

一通りの説明を終えた後、佐脇は、机の上に並べた書類から顔を上げると、
「まだ、先生をなさっているのですか?」と、志寿火に尋ねた。
「えっ」っと言う顔で、志寿火は佐脇の顔を見て、今まで教えた生徒の顔を思い浮かべていた。
暫く考えても、佐脇の名前も顔も思い当たらなかった。
「夜麻下です。20年前に3ヶ月だけ生徒でした。今は、母方の佐脇になりました。」
その言葉に志寿火は驚いた。

20年前、大学を卒業したばかりの志寿火は、中学校教師として赴任した。
その学校では、いきなり1年生の担任に抜擢され、佐脇の担任だった。
佐脇は、イジメに遭い、下半身に大怪我を負い、1学期だけで転校していた。

目の前にいる、大きな体に日焼けした佐脇の姿に、20年前の面影はなかった。
20年前はクラスの中で、勉強は一番出来たが、体が一番小さかった。
イジメは、事件が起きるまで全く気付かず、事件が起きても、その当時、学年主任だった井縫火露市が奔走して、志寿火は詳しい事は知らされなかった。

呆然として、掛ける言葉を忘れた、志寿火に、「あの時はお世話になりました。」と、佐脇は笑顔で答えた。

それから、2人は、それぞれお互いの事を話した。
佐脇は、離島の中学に転校し、それから大検で大学に入学し、起業したこと。
志寿火は、現在も教師を続けている事、娘の名前は、亜耶火、高校3年で受験生であること。夫が現在、教頭であることは、当然ながら佐脇は知っていた。

佐脇、帰り際にもう一度、来週までに5百万円を用意するよう念を押して帰った。
井縫家には、義父の残した借金と、火露市の浮気で現金は無かった。
志寿火は、お金の事を考えたが、まとまったお金は学資保険くらいしか無かった。
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