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ワルキューレの朝ごはん
第8章 人間不信
演劇がある種の精神的浄化
(カタルシス)をもたらす、と云うことはアリストテレスの

「詩学」以来よく知られた事実である。しかし、そこに生まれるカタルシスはあくまで結果であって目的ではない。

そこは現実と虚構の境界そのものが曖昧に共存している。

無垢の現実などと云ったものは欠片だってありはしない。

現実の彼女はフツーと云う名の絶対的主体(=神)に因って支配される操り人形。

少なくとも悪夢の世界に自らの主体的意思で参加している訳ではない。しかし、サロメ

を演じる彼女は、たとえ身を硬ばらせた操り人形の如く見える瞬間があったとしても、

自らの主体的、意思的な選択において立っていると云った事実は何も変わらない。

誰より輝いていた。ある突出した徒花にも似た光景、否、

寧ろそうであれば尚更、記憶されるに違いないのだろう。

境界の彼方に追放された異形の流刑者だったはずの娘が、

舞台の上から如何にもたどたどしい演技と伴に発語する。

端的に云うとそれは、彼女を排斥する悪夢の世界との緊張に満ちた闘いでもあった・・・
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