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スカーレット オーク
第51章 51 蒼天
 コーヒーで少し頭がはっきりしてきた。
立ちあがる直樹を見てキスくらいしてくれるだろうかと期待したが、素っ気なく玄関に向かって行った。
外に二人で出ると、とてもいい天気で雲一つない蒼天だった。――あの日もこれぐらいいい天気だったなあ。
 駅まで二人とも特に何も話さなかったが、いつの間にか手をつないでいて優しい気持ちが流れている。――一緒にいられたらなんでもいいか。
 緋紗はまったりとした気持ちになって歩いたが、嬉しい時間はすぐ過ぎ去ってしまう。
もう伊部駅前の交差点に来てしまった。
交差点を渡って駅に着くと電車が来るまでもう後五分だ。

「もういくよ」

 直樹はそういって繋いでいた緋紗の手を取って口づけた。

「同じ匂いがするね」

 笑いながら言う直樹に緋紗は少女のように胸を焦がす。

「また」
「また」

 直樹が手を振って階段を上って行くのを静かに見守り、抱き合えなくてもいいから直樹のそばに居たいと思った。


 直樹が階段を降りると、ちょうど岡山行きの電車がきたので、向こう側にいる緋紗に手を振って乗り込む。
動き始めると緋紗も帰って行った。
窓から景色を眺めると低い山々が並び所々ピンク色に染まっている。――桜か。

 恥じらいで赤く染めた緋紗の耳のようだ。――ごめん。

 昨日も今日も緋紗が直樹に抱かれたがっていたのは痛いほどよくわかったし、自分も抱きたかった。――好きだから抱かない。

 初めて緋紗が好きだと自覚する。
しかし好きな気持ちだけでは付き合っていけないと思った直樹は、自分のことと緋紗のことを交差して考え始めている。
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