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蕾は開き咲きほこる
第12章 昔のキミも今のキミも

「それは違いますよ。覚えていませんか?私たちが仕事以外のプライベートで初めて話したあの日を」

光春さんの言葉に思い出すのは社員旅行の時。
部屋にいるのが苦痛だった私が、部屋を抜け出して湖の畔で光春さんと一晩を過ごした寒かった夜。

「社員旅行……」

「そうです。私が最初に好意をもったのはその時なんです。あの時は今とは違って人と関わるのが苦手だった昔の汐里。私を見て驚きおどおどして話すらままならなかった。真冬の夜中に浴衣と半纏だけの姿を見て何をやっているのかと呆れながらコーヒーを渡したのを今でも良く覚えています」

私も良く覚えている。
声をかけられても椅子に座ることもできずに立ちすくしている私に、もう一度言葉を和らげて話しかけてくれた。

「その時に飲んだコーヒーの味は今でも忘れられません」

カップを手にした時の暖かさ、そこから立ち上がる香ばしい香りは特別だった。

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