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籠の中の天使
第8章 楽しかった?
あの日からお母さんとは話せてない。
お父さんも何も言わない。
私の生活費だけを黙って渡すだけの両親…。
修学旅行のお小遣いも南斗に預ける様な人だ。
「修学旅行の…、お土産を持って来た。お父さんと食べて…。」
私がお土産の入った発泡スチロールの箱を差し出せばお母さんが泣きそうな顔で丁寧に両手で受け取る。
「ありがとう…、ありがとう…咲都子。南斗君と上がってお茶でも飲んでく?」
お店の前でお店に上がらないかとお母さんが指を差す。
女の子が控える奥の部屋でお茶とか有り得ないとか思う。
これが普通の喫茶店なら私はこんなに苦しむ事はなかったのに…。
お店の入り口から聴こえて来るユーロビート音楽に吐き気がする。
きっと、今もお店の2階じゃお客さんが居て、女の子と偽りの愛を演じて交合ってる。
だってお店の玄関の片隅には男物の靴が2足も並んでる。
2人のお客さんが来てて今なら時間に余裕があるお母さんだけど、私はお母さんと話をするよりも一刻も早くこの場から立ち去りたいと願ってしまう。
俯いた私の代わりに南斗が答える。
「今日はこれから買い物があるから、おばさん、咲都子は随分と料理が上手くなったよ。」
私の近況報告…。
そうやって両親と話せなくなった私の代わりに南斗が両親に私の状況を伝えてたのだと思う。
だからって…。
自分の娘に何も言わない親になるとか信じられない。
お母さんもお父さんも私よりもお店が大事なんだ。
今も痛い子を見る様な視線を私に向けるお母さんから早く逃げたいとしか思えない。
「そう、咲都子が料理を…。」
そう呟くお母さんの瞳は決して嬉しそうに輝く事は無く、悲しみだけに満ちてる。