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籠の中の天使
第8章 楽しかった?



持田先生はそんな兄弟喧嘩をニヤニヤとして眺めてる。


「咲都子ちゃんは優しい子だ。少ないお小遣いから、こんなにいっぱいカニを買って来て…。南斗も少しは見習え。」

「咲都子が少ないお小遣いで苦労したのは兄貴がケチったからじゃねえの?」


そろそろ止めないと見苦しい。


「北斗さん、お小遣いありがとう。南斗も私が買えなかった分のお土産まで買ってくれて嬉しかったよ。」


2人の間に割って入れるのは私だけだ。


「咲都子ちゃんが一番大人だな。」


持田先生が笑うから南斗や北斗さんも笑い出す。

持田病院はいつも明るくて好き…。

それでも笑ってばかりはいられない。


「そろそろ行くわ。」


病院の邪魔になるからと南斗が最後のお土産を持って立ち上がる。

私は少し緊張する。


「行っておいで…。」


持田先生が私の頭を撫でてくれる。

優しい持田先生に背中を押されて私はあの街へ南斗と向かう。


「お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃん…って、やだぁ…、『銀河』の南斗君だった。」


道を歩く私と南斗に声を掛けたのは『錦』のママ…。

その向こうで私のお母さんが笑ってる。


「女の子連れの人に声を掛けちゃダメだって…。」


『錦』の向かい側にある『花水木(はなみずき)』の女将さんも笑ってる。


「女の子連れって…、『夢乃家』の咲都子ちゃんって小さくて見えなかったんよ。南斗君ってば大きくなっちゃって…。」


ママや女将さん達の誰もが南斗を懐かしげに見て集まって来る。

嫌いな街なのに、見慣れた街はやっぱり私に優しくて居心地の良い街だと思わせる。


「咲都子は…、今日はどうしたの?」


私と同じように緊張したお母さんが聞いて来る。


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