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籠の中の天使
第12章 明けない夜
「咲都…子ちゃんだっけ?この街の生まれなのか?」
ノアが私をつま先から頭までゆっくりと見る。
「そうだけど…、悪い?」
この街の子だからと変な好奇心を持たれるのは嫌だ。
「なら、その怪我はこの街のせいか?だとすれば問題だよな。」
突然、ノアが私の腕を掴む。
その手首には峯岸君が握った時の痣がある。
「これは…、この街とは関係ない。」
「本当に、そうか?まさか虐待とか…、そんなんじゃないよな?」
赤い炎が私を見る。
澄んだ炎は私の嘘など絶対に見逃さないと言わんばかりに熱い視線を向けて来る。
「これは…、勘違いしたクラスメイトが…。」
そこまで言って、口篭る。
私の視界が歪み出す。
私は何をノアに話そうとしてるのだろう。
ノアは『たこ八』のおばさんに頼まれたから送ってくれてるだけなのに…。
大粒の涙が頬を蔦う。
何故、泣いてるのだろう?
ノアは私の自転車を押しながら泣き出した私の手を握って、ゆっくりと歩き続ける。
南斗のマンションの前を過ぎ、高速道路の高架下にある小さな児童公園でノアが立ち止まる。
公園の片隅にあるベンチに私を座らせると
「たこ焼き…、冷める前に食えよ。」
と言ったノアが公園の入口にある自動販売機に向かう。
「ほら…。」
ノアが渡してくれるジュースのペットボトル…。
彼に言われた通りにたこ焼きの包みを開いて食べる。
「いつもの味だ…。」
不思議だった。
ノアが作ったのにおじさんが作るたこ焼きと同じ味がする。
私の言葉でノアが笑う。
「当たり前じゃん。仕込みは毎回おばちゃんがやってんだから誰が焼いても同じ味になるよ。」
ノアの姿に南斗が重なって見えた気がする。