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籠の中の天使
第12章 明けない夜
私の南斗はまだ帰って来ない。
その淋しさをノアで埋めようとしてしまう。
「俺の爺さま…、ユダヤ人ってやつだった。」
ノアがゆっくりと話をする。
昔、ドイツでちょび髭を生やした小さな男が
『ドイツはドイツ人だけのものだ。』
と言ってヨーロッパ中を攻撃した。
「ある日本人がビザを出してユダヤ人を救ったって話は知ってるか?」
「うん、世界史で習った。」
「ドイツじゃユダヤ人に出すビザは無いって言われてたから一時的なビザで日本に来て、そこから他の国に逃げたんだ。」
国を追われ、行き場を無くした人達…。
その1人がノアの祖父…。
「その爺さまが日本で国松という家の娘と出会い、恋をした。」
国松という家は当時の日本ではかなりの名家だったらしい。
国すら失ったユダヤ人との恋なんか認められず、2人はアメリカへと駆け落ちする。
「ドラマみたい…。」
禁じられた恋の果ての逃避行…。
私が憧れる恋の姿…。
南斗は私をこの街から連れ出してはくれない。
私だけが出られればいいと諦めてる。
「ドラマだったら良かったけどな。」
ノアが嫌そうに眉を顰める。
ドイツと同盟国だった日本は世界中と戦争した。
最後に追い詰められた日本は
『国松という女性を返せ、そうすれば無条件降伏を呑む。』
とアメリカに回答する。
「それ…、実話?」
そんな歴史は学んでない。
「国松にはそれだけの力があったらしい。」
ノアも、そこはよくわからないと言う。
問題は戦争終結の為に必要な女性を連れてるノアのお爺さんがアメリカ中を逃げ回ってしまった。
「男ってのは身勝手な生き物だからな。世界がどうなろうと知ったこっちゃないらしい。自分が愛した女だけが傍に居ればいいという爺さまの我儘に世界中が振り回された。」
ノアの語る夢みたいな話に2人で笑う。