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嘘の数だけ素顔のままで
第1章 序章
 コトブキは何度かハローワーク前の道路でも交通誘導をしたことがあった。うだる暑さに耐えながら、中で働く職員たちの色白な手を思い出した。一年もしないうちにコトブキの肌は火傷したように浅黒くなっていた。

 同僚に、潮吹いてるぞ、と言われて最初のうちは意味がわからなかった。制服の肩の辺りに白い結晶がついていた。舐めてみるとしょっぱかった。そんな肉体労働者にとってコンビニは街のオアシスだった。


 ハローワークの近くにはセブンイレブンがあったが、いつの間にかパソコン教室になっていた。入口の貼り紙に受講料金が印刷してあり、二十三万円と知ってコトブキは驚いた。選考に受かっていれば、無料でパソコン教室に通えたことになる。


 どうして選考会場にシャーペンを忘れてくるようなババアが快適な教室で受講ができて、一方のおれは昼も夜もなく道路に立たされているのだろう、とコトブキは思った。悔しさのあまり、コトブキの中ではもはやそういうことになっていた。


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