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嘘の数だけ素顔のままで
第7章 痴漢【2】
 女の声で再びアナウンスが流れた。


 もうすぐ発車致します、ドアの開閉にお気をつけください、

 コトブキは中に乗った。

 乗客の視線が一斉にコトブキの方に集まった。

 乗客は十人ほどいて全員が間隔を空けて座席に坐っていて全員が女だった気がする。座席はひとつに五人坐れる程度の長椅子で、全部で四つあったかもしれない。コトブキはすぐに下を向いたので正確なところはわからなかった。そして、扉が閉まった。


 電車が加速していく音がした。車両は時々右に左に揺れた。揺れた弾みで、緊張していたコトブキは膝から崩れ落ちてしまいそうだった。車両の左側の方へ歩みより吊革に摑まると、右側の方の座席から残念そうな女の声があがった。


 気持が張り詰めて息が乱れた。

 車両は女ものの香水と、何かゆで卵を潰したようなそんな匂いがした。

 どこかで嗅いだことのある匂いだと思って、それが昔勤めていた結婚式場の三階フロアのチームと忘年会で行った三次会のフィリピンパブだということを憶い出すまでの間にも女たちからジッと見られている気がした。

 ひどく息苦しくて、吸っても吸っても酸素が肺に溜まらないそんな感覚があった。


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