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嘘の数だけ素顔のままで
第7章 痴漢【2】
 ネオン管のある場所は突き当りで右手の方に FEMALE、左手の方に MALE というネオン管がそれぞれあった。FEMALE はピンク色で MALE のネオン管は紫色だった。通路にあるのはそれだけだ。

 コトブキは紫色のネオン管に向かって歩いた。すると、ネオン管のあるところはまた突き当りになっていた。右手の方に通路が続いている。OPEN。緑色のネオン管が一際暗い闇の中で光っていた。スチールドアを引いてコトブキは中に入った。


 LEDのフットライトが申し訳程度にだけ光っていて壁の輪郭が何とかわかった。

 電車の走る音がする。一定のリズムでレールの継ぎ目を通過していくときの音は次第に大きくなった。コトブキがここに来たことを知っている何者かが、そのことを他の誰かに伝えているようなそんな合図のような気がした。じきに電車の走る音は耳障りなくらいうるさくなった。


 女の声でアナウンスが流れた。


 間もなく停車致します、ドアの開閉にお気をつけください、

 電車の速度が落ちていく。微かに床が振動した気がした。やがて電車は完全に停止し圧縮ポンプの抜けるような音と一緒にコトブキの足元に風が舞い上がった。扉が開いた。


 眩しくて一瞬目がおかしくなった。コトブキが見たのは本物の車両のような気がしたし、今しがた開いた扉も本物の電車のような気がした。


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