この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
嘘の数だけ素顔のままで
第8章 痴漢【3】

コトブキは、吊革に摑まる女を見た。
女は、コトブキを意識していた。前髪を気にするようにしておでこを手の甲で触った。女が唾を呑み込んだとき首筋に浮かぶ蒼い静脈が動くのが見えた。
女はあごが細くて鼻が高くて、印象のよい目許は薄化粧のせいか少女の面影さえ残しているように思えた。薄化粧に赤い口紅。きつめの香水。そのアンバランスな感じはコトブキの妄想を幾重にも掻き立てた。女は七分丈の白いパンツを穿いてて、
ブラウスは襟元の広く開いた青いノースリーブだった。有閑なマダムという言い方がピタリとハマる。正面に坐っている女たちのような華やかさこそなかったが、コンサバな装いは頭の先から爪先まで特別な品があった。
女の汗が腋で光っている。女は吊革を固く握りしめていた。電車が揺れると女は両手で吊革に摑まった。この女の左手にも結婚指輪がしてあった。
電車が再び大きく揺れた。女のからだがコトブキの方にむいて寄り掛かってきた。女の吐息が首筋にあたり、コトブキは反射的に息を止めて俯いた。女は社員証のようなカードをブラウスに付けていた。
オフィス街のOLは社員証を付けたままランチに行くという話を何かで読んだことがあったが、ここはオフィス街ではないし社員証を自慢するには閉鎖的過ぎた。
正面に坐っている女も上着にカードを付けていた。その隣の女も、そのまた隣の女も上着にカードを付けている。訳アリな社員証の正体を知りたいとコトブキは思った。コトブキはもう一度俯いた。
女は、コトブキを意識していた。前髪を気にするようにしておでこを手の甲で触った。女が唾を呑み込んだとき首筋に浮かぶ蒼い静脈が動くのが見えた。
女はあごが細くて鼻が高くて、印象のよい目許は薄化粧のせいか少女の面影さえ残しているように思えた。薄化粧に赤い口紅。きつめの香水。そのアンバランスな感じはコトブキの妄想を幾重にも掻き立てた。女は七分丈の白いパンツを穿いてて、
ブラウスは襟元の広く開いた青いノースリーブだった。有閑なマダムという言い方がピタリとハマる。正面に坐っている女たちのような華やかさこそなかったが、コンサバな装いは頭の先から爪先まで特別な品があった。
女の汗が腋で光っている。女は吊革を固く握りしめていた。電車が揺れると女は両手で吊革に摑まった。この女の左手にも結婚指輪がしてあった。
電車が再び大きく揺れた。女のからだがコトブキの方にむいて寄り掛かってきた。女の吐息が首筋にあたり、コトブキは反射的に息を止めて俯いた。女は社員証のようなカードをブラウスに付けていた。
オフィス街のOLは社員証を付けたままランチに行くという話を何かで読んだことがあったが、ここはオフィス街ではないし社員証を自慢するには閉鎖的過ぎた。
正面に坐っている女も上着にカードを付けていた。その隣の女も、そのまた隣の女も上着にカードを付けている。訳アリな社員証の正体を知りたいとコトブキは思った。コトブキはもう一度俯いた。

