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嘘の数だけ素顔のままで
第8章 痴漢【3】
 胸を触っているうちに自然とブラジャーがうえにずれた。手の平を茱萸のようなものがくすぐった。既に固くなっていて右に捩れたり左に捩れたり弾力がある。


 ばか女はどこまでおれのわがままを聞いてくれるのだろうか。それが知りたくなった。この固くなった乳首で試してみることにした。

 まずは軽く指で抓んだ。次に抓んだ先にそっと力を込めた。とりあえずばか女はここまでは許してくれるらしい。次に指で抓んだまま捩じ回すごとに力を込めていった。ばか女は何も言ってこない。コトブキはまだまだ力を込め続けた。


 爪の先が立つくらいやってもばか女は声ひとつ洩らさなかった。乳首取れちゃうんじゃないですか、そう心の中でうそぶきながら引っ張っているうちにブラウスの縫製がぶちぶちいった。

 どうやら、このばか女は乳首が取れてしまってもいいらしい。つまり、この女には何をしてもいいということだった。


 ばか女の頬にかかった髪をコトブキは指ではらった。キスをしてみたくなった。異性にさほど積極的でない男特有の不潔な身だしなみをコトブキは自覚していた。年じゅう寝ぐせをつけていることもそうだし、ここまで奥手になったのには口臭を気にしていたせいもある。歯の表面を舌先で撫でると唾液が粘ついた。

 コトブキは、ばか女の首に回した腕で肩を握った。そして、キスをした。


 口紅が脂っぽいことをこのとき初めて知った。舌を絡めてみたい、そう思った。ばか女は遠慮気味に舌先を出した。コトブキはそれを唇で挟み、のみぞ吸った。ばか女の唾液もひどく粘ついていた。もはや舌先と呼べる上品なものではなかった。

 お互いの口の中でベロとベロが絡みついた。ばか女はやにわに興奮してコトブキの吐息を貪った。思えば、遠く長い道のりだった。コトブキにとって、これが二十七歳のファーストキスだった。


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