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マスタード
第2章 想い出の店
こんなことは誰にも相談できないからネットで調べると、ありもしないことを現実のように感じて怒りや憎しみや嫉妬を募らせる妄想癖という症状は確かにあるようなことが分かった。

妄想癖を放置するとストーカーになったり、一方的に片想いをしている相手も自分のことを愛していると思い込んで、その恋人が自分の恋人を奪ったと憎しみを募らせて事件を起こしたりすることもあるという。

確かにそういう事件が新聞やニュースを騒がせたりすることもあるから、妄想壁というのは恐ろしいものだ。

明らかにおかしいから早く病院に行った方がいいと妻を説得するも、そんなおかしな人間がいるワケがないと自分の異常性は頑として認めずに逆上する始末。

毎日続く妻の悪口雑言に堪えかねてついに奏も妻を怒鳴りつけると、怒った妻は星志を連れて実家に帰ってしまった。
このまま離婚となるならそれもありだが、妻は全責任を奏に転嫁して慰謝料を要求してくるだろう。
こちらがどれだけの精神的苦痛を強いられているかを主張して慰謝料には頑として応じない覚悟だが、星志を取られるのは絶対にイヤだ。

この時星志はまだ3歳。本来ならパパもママも仲が良くて幸せに過ごせるはずなのに、何でこんなことになったのだろう。荒れた家庭の原因である妻が余計に憎らしくなった。

車なら5分くらいの所にある妻の実家に乗り込んで話し合いをして金曜の夜か土曜の朝には星志を迎えに行って、土日の休日は星志と一緒に過ごして日曜の夜に返しに行くということで折り合いをつけた。

実家に戻っても奏のことをあることないこと悪く言っていたのだろう。こんなことになったいきさつを全て話すと妻の両親は「情けない」と言って嘆いていた。

そんな星志との奇妙な週末親子生活が始まり、慌ただしい生活の中、あの街やリサのことを少し忘れかけていた時に突然リサからのメールが来た。

会いたい、どうしても会いたいと書かれていた。

消えていたワケではない。少し弱火になっていた奏の胸の中の炎がまた激しく燃えあがった。

会いたい、ボクもリサに会いたい。

「今度デートしてくれたら・・」
リサとの初めてのキスが奏の脳裏に甦る。

抱きたい、リサを抱きたい。
でも、星志の顔が頭に浮かんできた。
そうだ、自分はまだ離婚もできない子持ちの男だったんだ。それを隠してリサを抱くのは最低だ。
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