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マスタード
第7章 奏ちゃんパパは単身赴任
あんまり貴美が笑うものだから、服やズボンが破れていたり、まさかチャックなんて開いてるんじゃないかと思って奏は自分の全身を見渡した。

「ごめんね、奏ちゃん。今日は奏ちゃんが来るから女将はずっとご機嫌で」と貴美は笑いながら奏を一番奥の指定席に案内する。

「いつもは何か訊いても、うむとか、よろしくとかどこの女城主かってカンジなのに、奏ちゃんが来る日はご機嫌で、よろしくね💕とか、ありがとうね💕とか急に可愛らしい女のコになるんだもん」と貴美は愉快そうに笑う。

「こらっ、何言ってんのよ、貴美ちゃん。あたしはいつだってこんなカンジでしょ」と言って愛美がきゃははと笑いながら出てきた。

「奏ちゃん、おかえり~」と愛美が奏を歓迎すると、「おかえり~、そうちゃんパパ」と陽葵が嬉しそうにランドセルを持って奏の隣に座った。

「そうか、もう小学生になるんだね、おめでとう」

もちろん忘れていたワケではない。その時には来れないからひと足早く卒園と入学のお祝いを渡す。

「そうちゃんパパ、ありがとう」
陽葵はもらった文房具セットを嬉しそうにピカピカのランドセルに入れて早く学校に行きたいとはしゃぐ。

「ありがとうね、奏ちゃん。貴美ちゃんもおいでよ」

その日はまるで奏たちに気を遣っているように20時過ぎに最後の客が精算をすると全く客が来ないから早目に店を閉めて奏のおかえりと陽葵の卒園&入学に乾杯をした。

「奏ちゃんが単身赴任してもう1年か。この街もだいぶ変わったでしょ」

と愛美が言うように久しぶりにこの街に来たら新しい店ができたりして地味に景色が変わっていた。
何より驚いたのは『愛』がなくなっていた。結局この街にいる間に行ったのはあの1回だけだったけど、いつも気にはかけていたのだ。

「けっこう繁盛してたみたいだからおカネが貯まったのかな。ママ、東京に進出したみたいだよ」と愛美はちょっと羨ましそうに言った。

「へ~、東京に行ったんだ。スゴいね、ママは」

バイタリティーに満ち溢れたママの姿が思い出される。言葉は悪いが、こんな田舎のスナックのママで終わるような玉ではなく、そのうち何か大きな事をやりそうな、そんなオーラがママにはあった。

もしかすると大会社で成功しているリサが恩返しのためにママを東京に呼んでくれたのかも知れないとも思った。

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