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第2章 ピエロ

　０▽ピエロ
　
　スティファニーは屋上にあるフェンスの頂上にいた。そこは怖いほど静かだった。
　
「さようなら……みんな……」
　
　スティファニーがフェンスを越えようとした時、カチャと何かがフェンスに当たる音がした。彼女は音がする方に目をやった。そこにはアンティークなこうもり傘があった。
　
「何、傘……？」
　
　心配した誰かがスティファニーを迎えに来たものだと思っていた。その傘は彼女の目前で、すっと空中に浮かび上がった。そして天に向けて大きく開いた。
　
　――えっ……？
　
　傘は真っ赤なバラの花束になった。それをスティファニーに差し出す白い手が目に入る。
　
　――道化師《ピエロ》……？
　
　それは悲しい瞳をした道化師の手だった。彼は花束からバラの花を一本取り、スティファニーの目に前で数回振った。
　
「わあ、素敵……」
　
　雪の様にはらはらと舞い散るその真紅の花弁が、道化師の手の中で一枚の純白のハンカチに変わった。道化師は自分の涙を拭く仕草をした。
　
「道化師さん、泣いてるの？　何が悲しいの？」
　
　スティファニーは、南風に自分の髪が靡いている事に気付いた。耳元で風が呻っていた。自分の足元に目をやる。それまでジオラマに見えていたニューヨークシティが音を立て動き出した。
　
　――きゃっ、私……。
　
　身体が夜景の中に吸い込まれる様で恐怖に足が震えていた。ガシャ、ガシャと言うフェンスが軋む音がやけに大きく聞こえていた。
　
　――私……。
　
　スティファニーは道化師を見た。
　
　道化師の顔は泣きながら笑っていた。彼は白い両方の手を彼女に差し出し、片方の膝をついて手招きをした。
　
　：
　
　スティファニーの両方の足が地面を感じていた。辺りを見渡す。彼女の足元には大きなバラの花束があった。