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スカーレットオーク3
第5章 5 沢田雅人
 一度、小夜子に自分のピアノを聴いてもらった時の感想が『誠実ね』だった。

怪我で引退を余儀なくされたとはいえ、本職のピアニストである小夜子に技術の評価ではなく感想を言われただけで沢田は嬉しかった。

そんな小夜子が直樹のことを『正確なロマンチスト』と言っていた。

小夜子が亡くなった後、沢田がこのペンションにピアノ演奏のオーディションを受けに来た時、合格をもらえて浮足立ったが、直樹のピアノを聴いたとき感心し、小夜子の評価を納得する。

無機質で機械的な精度の高さで楽譜通りの正確な演奏なのに、甘く心に響くのだった。(なんか。敵わないなあ)

自分のほうがピアノ歴が長いとは思ったが当時は率直にそんな感想を持った。



 今ならわかる。

直樹の演奏は緋紗の影響なのだと。

 沢田も所謂『草食男子』で奪う恋愛など到底できなかった。

しかも緋紗は全く沢田の気持ちに気づいていないようだ。
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