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BeLoved.
第29章 【on friday the 13th.】
夕食後の静かなリビングに、無機質なシャッター音が響く。堪らずわたしは手を止めそちらを向いた。
「麗さまぁ…」
「ん?」
視線の先には…麗さま。ソファに寝そべった彼は、足元に座り洗濯物を畳むわたしにスマホを向けている。
「だって未結、可愛いんだもん」
…彼は本当によくわたしの写真を撮る。その訳をきくといつも返ってくるのはこの答え。でもどんな気まぐれか?今日は違った。
「今の未結って今しかいないでしょ。だから全部撮っておきたいの。だめ?」
「…駄目じゃない…ですけど」
まっすぐな言葉に加え、小首を傾げたくらいにして。彼らしからぬ可愛らしさすら感じてしまうその仕種に、それ以上何も言えなくなってしまった。
しかし──よくよく思い起こしてみれば、わたしは彼の写真を一枚も持っていない。
…欲しいな。そんな思いが芽生えた。言ってもいいかな…おっかなびっくりだったけど、思い切って口に出してみた。
「未結が一緒に写ってくれるならいいよ」
「うーわっ、珍しー!写真嫌いの麗くんが!」
予想外の快諾の直後に、感嘆の声。こちらの主は流星さまだ。ダイニングテーブルにつき、ノートPCでの作業をしている最中だった彼は、手を止めわたし達に驚いた顔を向けている。
「雪でも降んじゃねーの?」
「流星うるせぇ。…これでいい?未結」
「あ…。…ひゃっ?!」
自撮りモードになった画面に写し出されたのは、背後から抱きすくめてくる彼とわたしの姿。しかも前触れなく頬に口付けられて、変な声があがってしまう。即座に切られたシャッターと…満足げな声。
「ほら、かわいい」
「可愛くないです!」
スマホは既に彼の手の中だから見えない。けど絶対間抜けな顔になってる。麗さまと並んだ状態でのそんな写真なんて見たくない。「送るね」という申し出をわたしは断った。
「あ、俺とは撮らねー方がいーよ、未結」
…何も言っていないのに流星さまからは拒否の声。しかも理由が理由だった。
「100パー心霊写真なるから」
得体の知れないモノが写り込む、体の一部が欠ける…そんな写真が必ず撮れてしまうそうだ…。長い付き合いの麗さまからも「それは本当だよ」とのお墨付きを頂いて。
「…。…あ」
ふとカレンダーに目が留まる。…今日は13日の金曜日だった。不吉とされるこの日も、我が家は通常通りなのだった。