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BeLoved.
第8章 【男と暮らすということ】
わたしがここに越してきてから、早くも十日あまりが経とうとしていた。
今までの住まいとの差に、ひたすら戸惑った日々だった。
まず、この広さ。何処に居ても落ち着かず、居心地が悪かった。
IHコンロもドラム式の洗濯機も、奉公先のおうちで何度か経験したとはいえ使いづらい。
そしてこのマンションには和室がない。全てフローリングだ。ずっと畳生活だったわたしにとって、これは地味に辛かった。
それでも、住めば都とはよく言ったもので。
広くて物が少ない室内は、とても掃除がしやすい。IHコンロは火力の調節が楽で、お料理もよりやりやすくなった。洗濯機は乾燥機能付きで、雨の日には重宝した。フローリングにはまだ慣れないけれど…少しずつ恩恵を享受し、馴染んできている自分がいた。
…それよりなにより一番慣れないのは、一つ屋根の下に『彼ら』つまり…『男の人』がいることだ。
『男は一歩外に出たら七人の敵がいる』と聞く。
ことに彼らは激務、不規則、重責。そこから唯一解放されるのがここ。
だから
「未結ー、なー俺の部屋着どこー?」
「!?い、今お持ちしますからね流星さまっ」
たとえ下着一枚でウロつかれても。
「未結、おかわり」
「麗さますみませんもうありません…」
食事の度に炊飯器を空にされても。
『家に帰ると電源が落ちる』彼ら自身そう言っていたから、素の自分に戻るのは分かる。
通いでお仕えしていた頃とは違い、住み込みとなった今、そんな彼らの姿を目の当たりにする機会は劇的に増えた。
それは当たり前だし、幻滅もしていない。そもそもそれ相応の報酬を頂いているのだから『男の人がいる暮らしに慣れない』なんて、言っている場合じゃないと分かってはいるんだけど。
『女としてもおまえが欲しい』
あの日のあの言葉が、否が応でもわたしを意識させていた。
しかし今のところ、その気配は…ない。彼らがわたしに触れるのは、頭を撫でてくれる時くらいだ。
あれはもしかしたら聞き違い、或いは冗談だったのだろうか。そんな考えすら芽生え始めていた。
…しかし『その日』は、突然訪れたのだった。