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BeLoved.
第44章 【彼の根底にあるもの。2】
もう噛まないで。…食べないで。こんな哀願はきっとこの人にしかしない。そしてそれは、届かない。
痛いのに気持ちいい。気持ちいいのに痛い。繰り返される飴と鞭は、わたしを追い詰めて…より深みへと堕としていった。彼の感覚以外、何も感じなくなるまで。
「…そうだ。キスしてなかったね。未結、大好きなのに」
「!んん…っ」
キスに"恐怖"を覚えたのなんか初めて。
舌を食いちぎられるかもしれない。今の麗なら、それもけっして大袈裟ではないと思ったから。
「ん…」
閉ざした唇を割り入って…というか、わたしが彼を咥内に受け入れた。…本能がそうさせた。恐怖よりも、身体に染み込まされたキスの甘さを乞う気持ちの方が勝ったから。
「は…、ん…」
…ほら、絡みつく舌は熱くて心地いい。瞬く間に広がる甘さと、響く唾液の音。酔い痴れて、強張りが解けていく身体は。彼がわたしと繋がるための体勢を取っていたことへの反応を遅らせた。
「──未結、俺のこと好き?」
「…っ、え…?」
唐突な、答えなんかお互い分かりきっているその問い。
視線の先の彼は、こちらをまっすぐ見つめ返していて。
「"好き"?」
「んぅ…!」
取られた左手の指への、噛み付き。それはさっきまでのような味わうためのものでも、行き過ぎた愛撫でもない。『言わせる』ための、威嚇。
『その言葉』を口にさせることで、改めて憶えさせたい?わたしが自分のものだって。──それとも…改めて憶えたい?自分がわたしのものだって。
…彼は何を思ったのかな…。
「…き…、 …すき…… ──ひぎゃあぁッ?!」
『その言葉』を口にした直後、指に噛み付いた歯は肌を破った。…いつかのわたし自身が、彼にしたみたく。
左手の薬指、その根元。走り抜けた痺れと痛み。滲んだ血。それらを全て包み込み、味わい喰らい尽くそうとする舌の熱さ。
「っ…」
痛みから?恐怖から?…悦びから?もう、どんな理由で溢れているかわからない涙の先には……麗。
「愛してる、未結」
そう言って彼は、再び唇を重ねた。触れるだけの優しいそのキスは、昂った気持ちを少しずつ落ち着かせ──いや、麻痺させるには充分だった。
麗はわたしにいろんなことを教えてくれる。
───だけどまさか、自分の血の味まで教えられるとは、思わなかった。