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想い想われ歪なカタチ
第5章 5
戸を叩く 音がする。

隠れて篭もったはずのトイレの個室は すぐに流牙に見つけ出された。
そりゃそうよね。
嫌な習い事の先生から逃げ出すとき、
パパに叱られてベソかいて泣いてたとき、
私はいつも この場所を使ってたんだもの。
流牙なら 知ってるはずだわ。ずっと私に仕えてた流牙なら・・・。



・・・・・



「お嬢様、ここを開けてくれませんか?
 もう夕食の時間もとっくに過ぎています。ここにいても仕方ありませんよ?」


深い湖の底の水温のように、穏やかな流牙の声がトイレの扉越しに響く。



「いや!! パパ、怒ってるもの。出たくない!」


私は広いトイレの個室の便座の上に、膝を抱えて座りながら叫ぶ。
普通なら用を足すだけとは思えない広さだろうけど、うちの屋敷のトイレはやけに広い。
毎朝、業者から取り寄せて 高価な陶器に刺して放射線状に飾られた薔薇の強い芳香が、
涙でくすぶって赤くなった鼻を刺す。


「旦那様なら、もうお怒りを解いていらっしゃいます」


「うそ!! ぜったい、まだ すっごく、わたしのこと怒ってる!
 わたし、本当に壊す気なんてなかったのに!!」


パパはマイセンのコレクターだった。
カップや花瓶、置物に至るまで、数々の品々を誇っていた。
その値段の高いやつほど、私の手の届かないところに置いてあって、
その値段の高いやつほど、私の目のひく綺麗なやつで、
別に悪気があったわけじゃない。
幼い子供の心理としては、目の惹いたものを
どうしても手の中に収めてみたくなるものだ。
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